おちゃノート工学数学
複素関数

オイラーの公式とフェーザ — 交流回路が複素数で解ける理由

更新日 2026-10-01

コイルやコンデンサを含む回路は、本来は微分方程式で解く必要があります。ところが電気回路の授業では、jωLj\omega L や 1jωC\dfrac{1}{j\omega C} を使った複素数の計算だけで答えが出ます。その仕組みの中心にあるのがオイラーの公式です。

オイラーの公式

テイラー展開の exe^x に x=jθx = j\theta を代入して、j2=−1j^2 = -1 を使って実部と虚部に分けると確かめられます。

ejθ=(1−θ22!+θ44!−⋯ )+j(θ−θ33!+⋯ )=cos⁡θ+jsin⁡θe^{j\theta} = \Bigl(1 - \frac{\theta^2}{2!} + \frac{\theta^4}{4!} - \cdots\Bigr) + j\Bigl(\theta - \frac{\theta^3}{3!} + \cdots\Bigr) = \cos\theta + j\sin\theta

図形的には、ejθe^{j\theta} は複素平面の単位円上で、角度 θ\theta の位置にある点です。θ=ωt\theta = \omega t とすれば、角速度 ω\omega で回り続ける点になります。

正弦波を回転する矢印として扱う

交流電圧 v(t)=Vmcos⁡(ωt+ϕ)v(t) = V_m\cos(\omega t + \phi) は、回転する矢印の実部として書けます。

v(t)=Re[ Vmejϕ ejωt ]v(t) = \mathrm{Re}\bigl[\,V_m e^{j\phi}\, e^{j\omega t}\,\bigr]

回路の中の電圧・電流はすべて同じ ω\omega で回るので、ejωte^{j\omega t} は共通です。そこで変わる部分だけを取り出した複素数

V˙=Vmejϕ\dot V = V_m e^{j\phi}

をフェーザと呼びます。振幅と位相をひとつの複素数で持っているわけです。

微分が掛け算になる

フェーザが便利な最大の理由はこれです。

ddtejωt=jω ejωt\frac{d}{dt} e^{j\omega t} = j\omega\, e^{j\omega t}

時間で微分することが、jωj\omega を掛けることに置き換わります。コイルの v=Ldidtv = L\dfrac{di}{dt} は V˙=jωL I˙\dot V = j\omega L\,\dot I に、コンデンサの i=Cdvdti = C\dfrac{dv}{dt} は V˙=1jωCI˙\dot V = \dfrac{1}{j\omega C}\dot I になります。

素子時間領域インピーダンス
抵抗v=Riv = RiRR
コイルv=L di/dtv = L\,di/dtjωLj\omega L
コンデンサi=C dv/dti = C\,dv/dt1/(jωC)1/(j\omega C)

微分方程式が、オームの法則と同じ形の割り算になる。これが「交流回路が複素数で解ける理由」です。

例題

インピーダンスは Z=3+4jZ = 3 + 4j で、∣Z∣=5|Z| = 5。電圧のフェーザは V˙=10\dot V = 10 なので

I˙=103+4j=10(3−4j)25=1.2−1.6j\dot I = \frac{10}{3 + 4j} = \frac{10(3 - 4j)}{25} = 1.2 - 1.6j

大きさは ∣I˙∣=2|\dot I| = 2、偏角は arctan⁡(−1.6/1.2)≈−53.1∘\arctan(-1.6/1.2) \approx -53.1^\circ。したがって

i(t)=2cos⁡(ωt−53.1∘) Ai(t) = 2\cos(\omega t - 53.1^\circ)\ \mathrm{A}

電流が電圧より 53.1° 遅れる、というコイルを含む回路らしい結果が、割り算1回で出ました。

まとめ

  • ejωte^{j\omega t} は複素平面を回る点で、その実部が正弦波
  • フェーザは振幅と位相をまとめた複素数
  • 微分が jωj\omega 倍になるので、回路の微分方程式が複素数の代数計算になる

この記事の演習

A4で印刷して手で解くのがおすすめです。解答PDFには途中式まで載せています。