電子回路の授業では、ダイオードやトランジスタのような非線形素子を「小信号では抵抗とみなす」と習います。これを正当化しているのがテイラー展開の1次の項で打ち切るという操作、つまり線形近似です。
線形近似
関数 f(x) を、ある点 x0 のまわりで少しだけ動かすと
f(x0+Δx)≈f(x0)+f′(x0)Δx
と近似できます。グラフで言えば、曲線を x0 での接線に置き換えることです。Δx が小さいほど曲線と接線のずれは小さくなります。
テイラー展開
1次で足りなければ、2次、3次と項を足していきます。
工学で頻繁に使うのは次の4つです。覚えておくと計算が一気に速くなります。
exsinxcosx(1+x)a=1+x+2x2+6x3+⋯=x−6x3+⋯=1−2x2+⋯=1+ax+2a(a−1)x2+⋯
例:ダイオードの小信号抵抗
線形近似から ΔI≈dVdIΔV です。eV/VT の微分は VT1eV/VT なので
dVdI=VTISeV/VT=VTID⟹rd=IDVT=1 mA26 mV=26 Ω
指数関数という強い非線形性を持つ素子が、動作点のまわりでは 26 Ω の抵抗としてふるまう、というのが小信号モデルの正体です。
近似はどこまで使えるか
捨てた2次の項が、誤差の目安になります。ex≈1+x なら誤差はおよそ x2/2 です。ダイオードの場合 x=ΔV/VT なので、ΔV が VT の1割(約 2.6 mV)なら誤差は1次の項の約5%。「小信号」とは VT に比べて十分小さい信号という意味だと分かります。
振り子の sinθ≈θ も同じです。θ=10∘=0.1745 rad では sinθ=0.1736 で、ずれは約0.5%。次の項 θ3/6 から見積もれます。
まとめ
- 線形近似は「動作点での接線」に置き換えること
- 小信号モデル、振り子、誤差伝播はすべてこの近似
- 捨てた次の項の大きさで、近似が使える範囲を見積もれる
テイラー展開は、複素関数のオイラーの公式の証明にもそのまま使います。