おちゃノート工学数学
微分積分

テイラー展開と線形近似 — 小信号近似はこうして作られる

更新日 2026-10-01

電子回路の授業では、ダイオードやトランジスタのような非線形素子を「小信号では抵抗とみなす」と習います。これを正当化しているのがテイラー展開の1次の項で打ち切るという操作、つまり線形近似です。

線形近似

関数 f(x)f(x) を、ある点 x0x_0 のまわりで少しだけ動かすと

f(x0+Δx)≈f(x0)+f′(x0) Δxf(x_0 + \Delta x) \approx f(x_0) + f'(x_0)\,\Delta x

と近似できます。グラフで言えば、曲線を x0x_0 での接線に置き換えることです。Δx\Delta x が小さいほど曲線と接線のずれは小さくなります。

テイラー展開

1次で足りなければ、2次、3次と項を足していきます。

工学で頻繁に使うのは次の4つです。覚えておくと計算が一気に速くなります。

ex=1+x+x22+x36+⋯sin⁡x=x−x36+⋯cos⁡x=1−x22+⋯(1+x)a=1+ax+a(a−1)2x2+⋯\begin{aligned} e^x &= 1 + x + \frac{x^2}{2} + \frac{x^3}{6} + \cdots \\ \sin x &= x - \frac{x^3}{6} + \cdots \\ \cos x &= 1 - \frac{x^2}{2} + \cdots \\ (1+x)^a &= 1 + ax + \frac{a(a-1)}{2}x^2 + \cdots \end{aligned}

例:ダイオードの小信号抵抗

線形近似から ΔI≈dIdVΔV\Delta I \approx \dfrac{dI}{dV}\Delta V です。eV/VTe^{V/V_T} の微分は 1VTeV/VT\dfrac{1}{V_T}e^{V/V_T} なので

dIdV=ISeV/VTVT=IDVT⟹rd=VTID=26 mV1 mA=26 Ω\frac{dI}{dV} = \frac{I_S e^{V/V_T}}{V_T} = \frac{I_D}{V_T} \qquad\Longrightarrow\qquad r_d = \frac{V_T}{I_D} = \frac{26\ \mathrm{mV}}{1\ \mathrm{mA}} = 26\ \Omega

指数関数という強い非線形性を持つ素子が、動作点のまわりでは 26 Ω の抵抗としてふるまう、というのが小信号モデルの正体です。

近似はどこまで使えるか

捨てた2次の項が、誤差の目安になります。ex≈1+xe^x \approx 1 + x なら誤差はおよそ x2/2x^2/2 です。ダイオードの場合 x=ΔV/VTx = \Delta V / V_T なので、ΔV\Delta V が VTV_T の1割(約 2.6 mV)なら誤差は1次の項の約5%。「小信号」とは VTV_T に比べて十分小さい信号という意味だと分かります。

振り子の sin⁡θ≈θ\sin\theta \approx \theta も同じです。θ=10∘=0.1745 rad\theta = 10^\circ = 0.1745\ \mathrm{rad} では sin⁡θ=0.1736\sin\theta = 0.1736 で、ずれは約0.5%。次の項 θ3/6\theta^3/6 から見積もれます。

まとめ

  • 線形近似は「動作点での接線」に置き換えること
  • 小信号モデル、振り子、誤差伝播はすべてこの近似
  • 捨てた次の項の大きさで、近似が使える範囲を見積もれる

テイラー展開は、複素関数のオイラーの公式の証明にもそのまま使います。

この記事の演習

A4で印刷して手で解くのがおすすめです。解答PDFには途中式まで載せています。