おちゃノート工学数学
線形代数

固有値・固有ベクトル — 連立微分方程式を「ばらばらに」解く道具

更新日 2026-10-01

授業で固有値を習うと、たいてい「det⁡(A−λI)=0\det(A-\lambda I)=0 を解け」という計算から始まります。でも工学で固有値が出てくる理由はひとつで、絡み合った変数をほどいて、1変数ずつの問題に分けられるからです。

絡み合ったシステムの例

2つのタンクの水位、2つのコンデンサの電圧、2つの質点の位置。こうした量 x1,x2x_1, x_2 がお互いに影響し合うと、次のような連立微分方程式になります。

ddt(x1x2)=(−311−3)(x1x2)\frac{d}{dt}\begin{pmatrix} x_1 \\ x_2 \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} -3 & 1 \\ 1 & -3 \end{pmatrix} \begin{pmatrix} x_1 \\ x_2 \end{pmatrix}

x1x_1 の変化に x2x_2 が、x2x_2 の変化に x1x_1 が入っているので、片方だけを取り出して解くことはできません。まとめて x˙=Ax\dot{\boldsymbol x} = A\boldsymbol x と書きます。

もし AA が対角行列なら話は簡単で、x˙1=ax1\dot x_1 = a x_1 と x˙2=bx2\dot x_2 = b x_2 を別々に解けば x1=c1eatx_1 = c_1 e^{at}、x2=c2ebtx_2 = c_2 e^{bt} です。固有値・固有ベクトルは、うまい座標を選んで AA を対角行列に見せるための道具です。

定義

AA をかけても向きが変わらず、λ\lambda 倍に伸び縮みするだけの方向が固有ベクトルです。式を変形すると (A−λI)v=0(A-\lambda I)\boldsymbol v = \boldsymbol 0 で、v≠0\boldsymbol v \neq \boldsymbol 0 の解があるためには

det⁡(A−λI)=0\det(A - \lambda I) = 0

が必要です。これを特性方程式と呼びます。

例題で解いてみる

1. 固有値を求める。

det⁡(−3−λ11−3−λ)=(λ+3)2−1=0⟹λ=−2, −4\det\begin{pmatrix} -3-\lambda & 1 \\ 1 & -3-\lambda \end{pmatrix} = (\lambda+3)^2 - 1 = 0 \quad\Longrightarrow\quad \lambda = -2,\ -4

2. 固有ベクトルを求める。

λ=−2\lambda = -2 のとき (A+2I)v=0(A+2I)\boldsymbol v = \boldsymbol 0 は −v1+v2=0-v_1 + v_2 = 0 なので v1=(1,1)T\boldsymbol v_1 = (1, 1)^{\mathsf T}。 λ=−4\lambda = -4 のとき v1+v2=0v_1 + v_2 = 0 なので v2=(1,−1)T\boldsymbol v_2 = (1, -1)^{\mathsf T}。

3. 一般解を書く。 固有ベクトルの方向では、システムは1変数の y˙=λy\dot y = \lambda y と同じふるまいをします。だから

x(t)=c1e−2t(11)+c2e−4t(1−1)\boldsymbol x(t) = c_1 e^{-2t}\begin{pmatrix} 1 \\ 1 \end{pmatrix} + c_2 e^{-4t}\begin{pmatrix} 1 \\ -1 \end{pmatrix}

4. 初期値で定数を決める。 c1+c2=1c_1 + c_2 = 1、c1−c2=0c_1 - c_2 = 0 より c1=c2=12c_1 = c_2 = \tfrac12。

x1(t)=e−2t+e−4t2,x2(t)=e−2t−e−4t2x_1(t) = \frac{e^{-2t} + e^{-4t}}{2}, \qquad x_2(t) = \frac{e^{-2t} - e^{-4t}}{2}

工学的な読み方

固有ベクトル (1,1)(1,1) は「2つが同じ向きに動く」モード、(1,−1)(1,-1) は「逆向きに動く」モードです。固有値はそれぞれのモードの減衰の速さで、時定数に直すと τ=1/∣λ∣\tau = 1/|\lambda| なので 0.5 と 0.25 です。逆向きのモードの方が2倍速く消える、と式を見るだけで分かります。

まとめ

  • 固有値は「AA をかけても向きが変わらない方向」の伸び率
  • 固有ベクトルの方向に分解すると、連立微分方程式が1変数の方程式の集まりになる
  • 固有値の実部の符号で、安定か発散かが決まる

演習PDFでは、対角化と、2階の微分方程式を行列で書き直す問題も扱っています。

この記事の演習

A4で印刷して手で解くのがおすすめです。解答PDFには途中式まで載せています。